「おーい着られたかー?」

「わ、ヒロくんっ!!」



バタンとノックもなしに入って来たのは、藍色の髪の男の子。



「女の子の部屋に入る時は、ノック必須だよ!」

「だって病室だし」

「病室なら尚更っ」



桜も散り終わった5月末。



「わー。似合うねえ」

「ほんと? ありがとっ」



2ヶ月遅れで、私は今日から高校生になります。



「翼(ツバサ)とお揃い♪」

「だって制服だもん」



ニヤニヤしてるヒロくんと、ニコニコが止まらない私。



「どした?」

「うーん‥」



私はスカートの裾を一生懸命ひっぱる。



「スカート短い‥」

「そーゆーモンなのっ」

「ほんと?」

「そっ」



高いところにある藍色の瞳を、じぃーっと見てみる。



「、なんだよっ」

「ほんとにみんなこんなに短いの?」

「やー‥興奮するわぁ」

「コウフン?」

「あいや‥翼が着れば、なんでも可愛いっ、な?」



ヒロくんがなんかおかしい。

でもヒロくんの言うことだから、これで合ってるんだ。




コンコン



「翼ちゃーん。着替え終わった?」

「あ、はい」



とても落ち着くこの声は、私をずっと担当していてくれた看護師さん。



「……翼ちゃん」

「……っ、婦長さん」

「「うわぁぁあんっ」」



勢い良く抱きついた私たちは、お互いにお互いの背中をポンポンと叩いた。



「翼ちゃんが外に出るのは嬉しいけどっ」

「うえ‥」

「外の世界でも、頑張るのよっ」

「はい!! 色々とたくさん、ありがとうございましたっ」




「翼ちゃん……」

「婦長さん‥っ」




「「うわぁぁああんっ」」






「いつまでやってんだよお前ら」





私は今日、

この病院という箱庭から、外へと一歩を踏み出します。



「行くぞ、翼」

「うんっ」



伸ばされた左手をパシッと掴んで、ゆっくりと歩き出す。



「大空(ヒロタカ)くん、翼ちゃんをよろしく頼んだわよっ」

「おうっ」



見送りに来てくれた看護師さんやお医者さん

それから、

小さい子やお年寄りの患者さん仲間に大きく手を振って、私はくるっと背を向けた。


そして、朝陽の眩しい自動ドアへと近づいていく。