「小金井~」

「はい」

「完璧にお前の監督不行き届きだな」



職員室に入るなり、テンション高く迎え入れてくれた先生は、ニヤニヤとしながらお話しをする。

これが‥お説教?



「火野にバレないようにしないと‥」

「や、美紅っちが校内放送したから、もうバレてんだけど」



小金井くんが、さっき廊下でヒロくんに会ったことを伝えると、先生はひどく驚いたように目を見開いた。



「あちゃー」

「あちゃーじゃないってば美紅っち‥」



おでこに手を当てながら天井を仰ぐ先生と、同じくおでこに手を当てながら大きく息を吐いてしゃがみ込んだ小金井くん。



「ぷっ」



なんだか面白くって。



「ふふふふふっ」



笑いが止まらなかった。お説教がこんなに面白いなら、毎日だって受けたいな。



「ふ?」



頭に置かれた先生の手。綺麗な切れ長の目が、私を見上げた。



「水月? こりゃ笑い事じゃないんだよ?」

「つーかせめて1年の校舎だけに流せば良かったんじゃね?」

「話を蒸し返すなっ、小金井」



よく話は見えないけど、楽しかった。学校に来ることが出来て良かったなって。この数時間だけですごくすごく思うの。


チャイムが鳴って、職員室にはほとんど先生が居なくなって。

風の音がよく聞こえる。春の終わりの葉桜が、ザワザワと気持ちよさそうで。太陽は緩くニコニコと笑ってた。


この先のことを考えると、楽しくて楽しくて仕方ない。

だから自然と、ほっぺが柔らかくなっちゃうんだ。



「「はぁー‥」」

「え?」



先生と小金井くんが揃って大きな息を吐き出すと、2人ともなんだか困ったような顔になった。



「お前、もう迷子になんなよ? 探すのダルい‥」



あ、そうだった。私が迷子になった所為で、小金井くんに迷惑かけちゃったんだ。

2時間目、小金井くんもサボった? って言ってた。それは‥私を探してくれてたのかな?

だから私は、



「ありがとうっ」



ってお礼を言ったのに。



「「はぁー‥」」



またため息をつかれました。しかも先生まで。



「教室に戻りな~」

「おう。んじゃ行くぞっ」



もう恐くはない小金井くん。

そう言って背中を向けた小金井くんの左手を掴む。すると--‥



「触んな」



弾かれた。