翼に甘くキスをして

どれくらいの時間が流れたかな。温かくって、ふんわりしていて、とても素敵な時間。



--ぃ



このヒトの呼吸と、私の呼吸のリズムがピタリと合ってる。



--‥きろ



こんな穏やかな刻。外に出る決意をしなきゃ、感じることなんて出来なかっただろうな‥。



「起きろテメェらっ」



その大きな声にビクッとなりながら、うっすらと目を開ける。そこには‥



「寝てんじゃねーよっ」



金に近い茶髪の、恐い顔をしたヒトの姿がありました。

あまり怒られたことのなかった私は、どうして良いのか分からず、大きなため息をつかれたことに景色を滲ませた。

すると--‥



「泣かないで」



そう言って頬を撫でるのは、膝の上に転がっているこのヒト。

その力の抜けるような優しい声と、その穏やかな色をした瞳に向かって、私はコクリと首を落とす。



「お前、このオンナ誰だか知ってんの?」

「うん。さっき会った」



表情はないけど、「ね?」って私を見るその瞳は優しい。



「んで、なんか用?」

「なんか用じゃねーよ」



この恐いヒト、名前なんていったっけ。えと‥かね‥かね……?



「小金井、この子が怯えてる」

「あ、小金井くんだ」

「あ"?」

「ふふ」



思い出した名前を口に出せば、また恐い顔で睨まれ、膝のヒトはまた笑った。



「お前なんで2時間目に出ねぇの?」



その質問に私は、帰り道が分からなくなってしまったことと、授業に途中参加してはいけないと教えてもらったことを話したんだ。



「あ"?」

「小金井、この子が怯えて‥」

「うっせ」



膝のヒトの言葉を遮った小金井くんは、私たちの前に座り込み、あぐらをかいた。



「いいか? 授業は途中からでも参加して良いんだよ」

「え‥でも」

「碧(ミドリ)の言うことは信じるな」

「みどり?」



首を傾げると、



「俺の名前」



膝のヒトの緩い声が教えてくれた。



「碧くん?」

「そう」

「瞳が緑色だから?」

「そう」

「ちげーよ」



小金井くんは、額に手を置きながらまたため息を吐いた。



「お前‥頼むからコイツに嘘つくなよ。ぜんっぶ本気にすっから」



このヒトは、嘘つきなの?