翼に甘くキスをして

真っ直ぐ歩いてきたつもりだったんだけど‥なんで知らないとこにいるのかな?

周りにはだぁれも居ない。

きっとね、ずっとずっと同じような造りが続いてるからいけないのよね。


そう思った私は、とりあえずおトイレまで戻ろうと回転した。



「綺麗だなぁ‥」



真っ白い廊下。高い天井には金色の模様がキラキラしていて、銀色の窓枠から見える景色はどこまでも広い。


私はこれから、この足でどこまでも歩いてゆける。

私はこの世界に生きているんだと、これから歩く未来にドキドキしてた。



「ねぇ」

「ひゃっ」



誰も居なかったはずの廊下なのに、いきなり声が響く。



「どこ行くの?」



姿が見えないと思ったら、そのヒトは長椅子に寝転がっていた。



「えっと、教室に戻りたいんです」

「1年生?」

「はい」

「ふーん‥」



ちょっと力の抜けるような声をしたそのヒトは、それきり何も喋らなくなった。



「あの‥」



恐る恐る近付いて覗き込むと--‥



「すー……」

「寝て、る?」



変なヒト。
でも、綺麗なヒト。


制服はズボンだから、男の子‥だよね?

スッと通った鼻筋に、長いまつげ。瞑っていても分かるような大きな目。

それを隠すような長い前髪は、よれよれとしていて真っ黒で。



「ちょっと緑っぽい‥かな?」

「なーに見てんの?」

「わっ」



目を瞑ったままで動いた唇に、またビックリだ。



「起きてたんですか?」

「まあね」

「何してるんですか?」

「特に何も」



外の世界には、不思議なヒトがいっぱいだ。

こんなヒトに、もっともっと会えるのかな?



「授業‥始まるよ?」



そう言われた時だった。

キーンコーンカーンコーン‥



「あ、どうしようっ」



右も左もキョロキョロ見渡すけれど、帰り道が分からない。

とりあえず右に行こうと、身体の向きを変えたその時--‥



「待って」



私の手首を、温かい大きな手がやんわりと掴んだ。