「よっ、敏腕弁護士。早いじゃん」

「おぃ、それは止めろって・・・」

 いつもの和也の軽口から、会話は始まった。

「そっちの会計事務所は、順調なのかよ?」

 和也は、東京に出てきてから、会計事務所に勤め、公認会計士の資格を取り、三年前に事務所を開いていた。独立する気が全く無い僕にとって、和也の独立は驚きだった。

「まぁね。何とか食い繋げてるよ。そっちこそ、そんなに脱力した顔して大丈夫なのか?まぁ弁護士先生なら、左団扇なんだろうけどな」

 まだ大して会話も交わして無いのに、キツイ一言だった。確かに最近、僕は弛んでいる。

「ばか言え。左団扇な訳ないだろ。‥でもなぁ、確かに、最近脱力してるんだよなぁ。秘書にも色々と言われちゃうし・・・」

「そもそも、渡辺は、何で弁護士になったんだっけ」

「なんでかって? そりゃ、世の中で困ってる、弱い人達を助ける為に決まってんじゃん?」

 和也が、吹き出していた。

「そこ、吹き出すとこじゃないだろ。んー?でも、ホントはなんでだっけなぁ?何故、俺は弁護士に‥」

 和也は、ついにはゲラゲラ笑いだしていた。

「そういや、沢井真夏、覚えてるか?あいつ、今頃どうしてっかな?」

 僕は、ドキッとした。

「なんだよ、急に」

「いや、お前の顔見てたら不意に思い出したんだよ。そりゃあ、知らなねぇか。でも、お前って、彼女のこと好きだったんだろ?」

「んまぁ、そうだったけど‥小学校以来、会ってもねぇしなぁ」