そう和也に告げると、僕は真夏の家に背を向けようとした、その時だった。

「ウォーウォー、こや娘は、山さぁ連れでいぐぞー」

 そう叫びながら、なまはげが、真夏を肩に担いで家の中から出て来たのだ。和也が思わず叫んでいた。

「うおー、わたなべ、見ろ、真夏がなまはげ、叩いでるどー、うひょっ、すげぇ、さすが真夏だぁ」

 見ると確かに真夏がなまはげの肩の上で、何か叫びながら足や手をバタバタさせて暴れていた。

 大体外に連れ出されるのは、なまはげに反抗した場合だ。恐らく真夏は、言うことを素直に聞かなかったのだろう。そして、肩の上の真夏が少しおとなしくなったの見計らい、なまはげが、彼女を下に下ろして家に帰そうとした時、真夏と僕は目が合った。

 真夏は、こちらを睨み付け、大きく

「あっかんべぇー」

 と、舌を出し怒った様に家に入って行った。

「おぃ、真夏のやつ今、泣いてたんでねーか?なっ!」

 和也がびっくりして、それでもうれしそうに叫んでいた。僕の視力は当時2.0あり、彼女の顔もはっきり見えていた。でも僕は、見てはいけないものを見たような気分になり、思わず答えていた。

「いや、泣いてねーべ、おら帰るわ、じゃな」

「おーい、なしたのよー?」

 そう、呼び止めようとする和也を振り切り、何だかすっきりしない気分を抱え、僕は、帰路に着いた。