家に上がり込んできたなまはげは、既に事情を察している我々に軽く脅しをくれた後、標的を母の背に隠れている弟に絞ったようだ。

「ウォー、親の言うごど聞いでるがー」

「きいでるー」

 弟はそう号泣しながら答える。

「ピーマンや人参、まずいってわがまま言って残してねーがー、言うごど聞がね子は、山さ連れでいぐぞー、ウォーウォー」

 一瞬、弟が号泣しながら凍り付いた。まさに今日の昼ご飯で、人参とピーマンを食べる事が出来ずに母から散々叱られていたのだ。

(なんでそんなことを知ってるんだよー)

 とでも訴えるように、また号泣を始めた。そして母は、弟を諭すように、なまはげに訴えた。

「明日から必ず食べますから、今日は許しで下さい。ね、明日から食べるよね?」

 そう母が弟に言うと、弟は

「食べるぅー」

 と絶叫。見事な決意表明だった。

 その後、二階に逃げた弟をよそに、なまはげは御神酒を飲んで我が家を後にした。

「今日は、となりの町も周るんだべ?」

 そう母に尋ねると、やれやれといった表情で答えた

「そうみたいだね」