時間は既に五時半を過ぎ、急いで帰っても、完全に門限を越えることになっていた。僕は焦っていた。

「さぁ帰ろう」

 僕が皆に声をかけ、帰ろうとした時だった。

「おーい、みんなぁ、こっち来てみぃー!」

 それは建物の脇の方から聞こえて来た、真夏の声だった。

(もう、暗くなっちゃうよ)

 そう思ったが、声のする方に皆で取りあえず向かった。

「ほらぁ、見てみぃ、これ見んと帰ったらもったいないけぇ」

 真夏が海の方を、指さした。そこからは、僕らが、先程まで遊んでいた海を一望出来たのだ。遠浅の海は穏やかに波打っており、とても静かだ。
そして、その海の果てに、まさにに太陽が沈もうとしており、空と海が一体となって、オレンジ色に輝く絶景となっていた。

「みかんみてぇな色だぁ!」

 和也が呟いた言葉には、皆吹き出していた。

「あたし、この景色、一生忘れんよ。連れてきてくれてありがと」

 真夏がゆっくりと実感を込めて僕に耳打ちした。

「一生」だなんて、なんて大袈裟な、僕は、そう思いながら、夕日に見とれ、オレンジ色に輝く真夏の横顔と、海を見ていた。

「わたなべ、やべーど、くらぐなってしまうど!」

 一緒に来たヤスが叫んだ。我に帰った僕らは、慌てて自転車に飛び乗り、帰路に付いた。五時半だった門限を、一時間半もオーバーし、皆それぞれこっぴどく親に叱られたのだったが、あの夕日と、それに感動している真夏の横顔は、僕の脳裏にこびり付いて離れなかった。