ズボンを膝上まであげた真夏のはしゃぎ様は、存分に楽しんでいる様子で、僕はとてもうれしかった。やがて夕刻も近づき、帰り支度を始めようかと相談しているときに、真夏が少し不安げな表情を浮かべているのに気が付いた。怪訝そうに見ている僕に真夏が近づき、耳うちしてきた。

「笑わんで。トイレ、帰りまでもたないかもしれん‥、どうしよ」

 僕は、ハッとした。そう言えば僕らは、何の気なしに、物陰で用を足していたが、真夏がそうは行かないのは、当然だった。少し思案していたが、周りを見ても、トイレは無かった。

(その辺でするしか・・・)

 喉まででかかった言葉を、取りあえず踏みとどめたものの、妙案が浮かばない。

 ふと山側を見上げると、数十メートル程度道を登った高台に、見覚えのある白い建物が見えた。前の年に出来たばかりで、その年の夏に家族で泊まった宿泊施設があったのだ。自転車を押しても、せいぜい十分程度だろう。

「あそこに行けば、トイレが借りられるよ」

 僕はすぐに真夏にそう伝え、皆に声をかけて、そちらへ上がる事にした。少し坂がきつく、思ったより時間がかかったが、真夏も無事トイレを借りる事が出来て、事なきを得た。