僕は、唐突に海を見に行くことを提案していた。僕らの町からは、遊び場になっていた漁港はすぐに行ける距離にあったが、鵜ノ崎海岸には少し距離がある上、途中きつい坂を越えなければならず、小学生が自転車で行くには、かなりの決意がいる所だった。

 しかし、真夏と一緒なら、がんばって行く価値がありそうだった。僕らは和也と他の友人を誘い、五人で行くことになった。

 次の日曜日、メンバーは、午後一時に僕の家の前に集合した。まだ、七月初めの秋田は、それでも初夏の雰囲気に包まれ、とても良い天気だった。

「今日はいい天気だなぁ。きっと海も気持ちいいべ」

 和也が大きな声でうれしそうに話していた。少し遅れて真夏がやってきた。

「わりい、わりい、自転車、アネキから借りてきたけぇ、おそぉなったわ」

 自転車は、真夏の身長にしては少し大きめの、ピカピカのスポーツタイプの自転車で、明らかに僕らのオンボロチャリとは、違っていた。その自転車を、皆珍しそうに覗き込んでいた。

「さ、いぐべ、いぐべ」

 和也の号令で、皆が出発した。少しばかりの商店が立ち並ぶメインストリートを抜けると、やがてきつい坂が見えてくる。

「おー、凄い坂!」