「前のときは、母の実家が別の所にあったけぇなぁ、隣の小学校だったんじゃ」

「そうか、じゃ、知らないわけだ。でもさ、そしたらまた転校するかもしれない?」

「・・・そうじゃなぁ」

 僕は、その強烈な広島弁にふき出しそうになるのをこらえて、会話を続けた。

「ところで君の名前、めずらしいな、やっぱ夏に生まれたとか?」

「そうなんよ、八月八日生まれ。単純じゃろぉ、真夏に生まれたから真夏ゆうて」

「ははっ」

 思わず笑ってしまったけれど、心の中ではそんなことは無いと思っていた。なぜなら、自分は次男という理由だけで、名前が二郎なのだ。単純どころの話ではない。おまけに弟は三郎ではなく「豪」だったので僕の立場もない。

「でも、この名前は気にいっとんよ。『まなつ』って呼んでな」

 僕はそのとき、心の中で(まなつ)と呼んでみた自分に少し照れていた。そして、彼女と話すときは中途半端に秋田弁が少し消えている自分が少し気恥ずかしくもあった。

 転校してきたばかりの彼女と話をしながらグランドに着くと、皆でドッチボールをすることになった。