僕は恐々、水盤の前に立っています。



水盤は神水を湛えて、無限堂の大きな梁から下がった裸電球の灯りをくっきりと映していました。


時はすでに、かれこれ六時をまわり、外はもう薄暗くなってきていました。

でも、水盤に何ら変わった様子は伺えません。



「シンくん、怖がらないで。

意識を水盤に集中させて、願うのよ。

『我の命の起源を見せたまえ』と」



葵さんの導きで、僕の意識は少しだけ水盤に集中したように感じました。

その時です、水盤に湛えた水の中心に微かな振動が広がったのは。

水盤の中心から輪を描くように、その振動は水盤の淵へと広がりました。



僕の意識は、自ずとその波へと集中してゆきます。




そして……

その振動の輪が次第に収まって水盤の表面がまた鏡のように平らになって……

僕はそこに見たのです、異次元にいる自分を。