「って、戻ってこられないってこと?」



「実際には、わたし達はこの『水盤』を覗くだけですから、物質的な身体が別次元に行くわけではありません。

でも、心、つまりわたし達の魂は別です。

魂は、時間の概念とは関係なくエネルギーを移動させることができますからね。

まあ、ひとつが全体であり、全てがひとつであるということです」



「わけわんない!」



姉蓮の欲求不満は頂点に達したようです。



「で、わたしの今の説明を聞いてなお、この『水盤』を覗く勇気のある方は?」




「あ、俺、この子達を母屋で遊ばせてくるわ」


そう言って立ち上がったのは、純一郎くんでした。


丁度その時、少し前にお昼寝から目覚めた原口さんちのくるみちゃんが、退屈そうに大きな伸びをしました。


「俺、そういうの興味ないし……

ほら、坊主、行くぞ」


「あ、じゃ、あたしも一緒に。

ほら、くるみちゃん?

お姉ちゃんと一緒にあ・そ・ぼ」



くるみちゃんの手を取って、純一郎くんの後に怜ちゃんが続きました。



「あの子達は、現世に満足してるようね」

「って、どういうことですか?」

「『水盤』を覗く資格のある者と、『水盤』を覗く必要がある者は違うってこと」



僕は、葵さんの言葉のあまりの鋭さに、思わず生唾をゴクリと飲み込んだのでした。