「それは、例えば、母が生きていたら……

とか、そういうことですか?」


姉の蓮は、真剣な面持ちで葵さんにそう尋ねました。


「そうですね、そういう別次元の世界もあるかもしれませんね。

そういう世界では、あなたは子供らしく、楽しく毎日を暮らして、恋をして、結婚してるかもしれません。

君はどう?

もしお父さんが生きていたら、そういう世界の方がいいかしら?」


「僕は、今が一番いいよ。

パパのかわりに僕がママを守るって約束したし」


「そう、それは心強いわね」


葵さんは、そっと要くんの頭に手を伸ばし、その髪を優しく撫でました。


「この子のように、現世に希望と満足感を持っている者だけがこの『水盤』を覗く資格があるのです。

そうでないと、ある意味危険です。

もし、『水盤』を覗いた貴方が、別次元の世界に未練やこだわりを持った場合、その次元に引き寄せられる可能性があるのです」