「いやぁ~坂本くん、久しぶり。遅かったじゃないか」




と、ロビーで僕に声を掛けてくれたのは、原口 龍太郎(ハラグチリュウタロウ)さん。

彼は某理化学研究所に勤めるDNA研究の第一人者なのです。

彼は生物学的観点から、DNAに刻まれる過去の記憶を取り出すことを、密かに研究しているのだと、以前に聞かされたことがあります。


「こちらが坂本くん?」


背の高い彼の陰から、一人の小柄な女性が顔を覗かせました。


「あ、紹介しよう。彼女は僕の妻。

今回のシンポジウムのテーマが『過去と未来』だったろ。

彼女も興味があるって言うものだから連れてきたんだ」


「原口 葵(ハラグチアオイ)です。今日はご一緒させていただくわね」


にっこりと微笑んだ彼女は、長い黒髪の色の白い日本美人でした。


切れ長の黒い澄んだ瞳が、食い入るように僕を見つめています。