コーヒー溺路線

 

「あっ、松太郎さん」
 

 
「いいから」
 


 
支払いを終えた商品が入っている白いビニール袋を彩子が持ち上げようとしたとき、松太郎がそれを横取りした。
 


 
「駄目です、私はお金も払っていないのに」
 


 
慌てて手を伸ばした彩子だが、ビニール袋を持って店を出ようとする松太郎について行くのが精一杯だった。
支払いも松太郎が済ませてしまったのだ。
 

彩子の目の前をゆっくりと松太郎が歩く。彩子が慌ててついて来ているのに気が付くと、歩く速度を落とした。
ああ、この人のこんなところが好きなのだ。彩子は思った。
 


 
「さあ、帰ろう」
 

 
「はい。ありがとうございます」
 


 
車に乗り込むとそれはゆっくりと発進した。それから当然のように彩子の住むマンションへと向かう。
 

二人でこうしていることが当然であるという感覚が幸せだと感じられることに、彩子は安心していた。
 

この幸せを当然だと感じるようになれば、靖彦のときと同じ結果になる。彩子はそう確信している。
いや、幸せだと感じなくなったことなどないのだ。確かに彩子は幸せだと感じていた。
彩子はもうあんな寂しい想いはしたくないのだ。