俊平の目が覚めた時、それはもう朝だった。和人の姿が見えないので、辺りを見回しているとスーツに着替えた和人が台所から顔を出した。
 


 
「先輩」
 

 
「ああ、やっと起きたか」
 

 
「今何時っ、仕事っ」
 


 
ようやくぼんやりとしていた頭がはっきりとしてくると、俊平は慌てて立ち上がった。
 


 
「お前は今日は休め」
 

 
「えっ」
 

 
「俺からの命令」
 

 
「休むだなんて、そんな」
 


 
あまりに飄々と言う和人に俊平は戸惑いが隠せない。和人は車の鍵を持つと玄関へと向かった。
 


 
「先輩っ」
 


 
俊平は慌てて和人を追いかけた。
 


 
「着替えもないしココアも残っているだろう。俺が帰ってくるまでに風呂に入って、それから晩飯を作って待っていろ」
 

 
「えっ」
 

 
「行ってきます」
 


 
命令の末、律義に挨拶までしてから和人は部屋を出て行った。
俊平は玄関の前で立ったまま茫然としている。
 

ようやく思い立って、まず風呂に入ろうと踵を返した。久し振りに泣いたために目が腫れている。不細工な顔だなと思いながら、シャツを脱いだ。
 

気持ちは昨夜とは打って変わって清々しいものになっていた。
少しだけ鼻歌なんかを歌ってみる。なんだかとても気分が良い。