コーヒー溺路線

 

車内には以前俊平が好きだと言っていたバンドのCDがあり、それがあまり大きくない音量で鳴っていた。
俊平は和人の車に乗ることが多い為に、何枚かの自前のCDを置いている。
 

今はその中でも特に俊平が気に入っているCDが読み込まれていた。
 


 
「俊平」
 


 
駅の西口で待っていろと言った和人の言う通りに、俊平はスーツのまま駅の西口に俯いた状態で立っていた。
それを見つけた和人が俊平の名前を呼ぶと俊平は顔を上げ、今にも泣きそうな顔をしていた。
 

俊平は重い足取りで車内に乗り込んだ。
 


 
「一体どうしたんだよ」
 

 
「……」
 

 
「とにかく一度俺の部屋へ戻るぞ」
 


 
助手席に乗った俊平は俯いたまま口を閉じている。和人は肩を竦めてみせると発車させた。
 


 
「……」
 

 
「先輩、もう駄目です」
 

 
「何がだ」
 

 
「俺、完全に嫌われましたよ」
 


 
和人は自嘲気味な笑みを浮かべる俊平を一瞥し、慣れた手付きでハンドルをきる。
顔を上げた俊平は当たり前のように手を伸ばすと、車内装備のプレイヤーを操作して曲を変えた。
落ち着いたバラードが鳴り始めた。
 


 
「彩子さん、新しい恋人ができた訳じゃあなかったんですって」
 

 
「……」
 

 
「彼女は、ずっとあの店で藤山が迎えに来ることを待っているんです」
 


 
和人は視線を前に向けたまま、そうかと小さく呟いた。