自惚れなどではないだろう、マスターは思った。
会社付き合いのある相手となると押しに弱い彩子が、毎日のようにその須川と言う男に付き纏われているのである。
「毎日一緒に社を出るというのは君と同意の上なのかい?」
「それがよく解らないんです。最初は特に何も意識しないで、須川さんが夜道は危ないからとわざわざ違う電車に乗ってまで送ってくれたので……。それからは毎日勤務が終わった頃に須川さんが追いかけるように社から出て来るんです」
「……」
「もちろん最初は迷惑じゃあなかったです。だけど、最近は何と言えば良いか」
「恋人でもないのに束縛されているんだね?」
彩子は驚いて顔を上げた。
マスターは真剣な顔でこちらを見ている。
「どうしてマスターには何でも解ってしまうのかな、参っちゃう……」
彩子が困ったようにくすりと笑うと、堅い表情をしていたマスターも苦笑を漏らした。
そうだ。やはり最初からマスターに話すべきだったのだと彩子は思った。
「その須川と言う男とは結局何の関係があるんだい?前の部署で同じだったかな」
「はい。彼は今も情報管理部です」
「前の部署では林がいたし、今の部署では藤山君がべったりだったから関わって来なかったんだろうな」
「きっと、そうだと思います」
彩子は再び不安そうな表情で俯いた。
マスターは腕を組み直すとそうかと呟いて長い溜め息を吐いた。

