松太郎が社長室へ呼ばれたのはその翌日だった。松太郎は直感でミカコが来ているのだろうなと思い、覚悟を決めたように溜め息を吐いた。
重い足取りで松太郎はエレベーターに乗り込み、ビルの最上階まで向かう。
提携がなくなるかもしれないというこれからの社に関する重大な危機に、松太郎は酷く狼狽した。
エレベーターが階上に進むにつれ松太郎の表情は強張ってゆく。
エレベーターは最上階に間もなく到着した。
「失礼します」
扉の前で松太郎は一度立ち止まり、二、三度ノックをすると自ら社長室へ入った。
案の定そこには秀樹と共にミカコと有木社長がいた。
ああ、この時が来たのだと思った。昨夜あのようなことを言って婚約破棄をしたのだから提携はなくなるに違いない。
「有木社長、ご無沙汰しております」
「やあ松太郎君。勤務中に急に呼び付けてしまって済まないね。ミカコが大事な話があるから四人揃っていなくては困ると言うんだ」
ミカコの父親の有木社長は穏やかな顔をしていた。
松太郎は不思議に思って頭を傾げてみた。秀樹はオロオロとした眼でこちらを何度も見ている。
「皆様のお察しのとおり、話というのは他でもない婚約と提携の話です」
ミカコがゆっくりと話し始めた。
その眼からはミカコの真意は見抜くことができない。しかしこれは何かを決心した眼だ。そうして彼女は自身の中で答えを見出したのだ。
テーブルを挟んで二人掛けのソファが向き合って並んでいる。
秀樹の座るソファに松太郎が腰をかけると、秘書の女性が清廉の足取りで茶を持ってきた。
テーブルを見ると既に三人の前には茶が出されている。

