休日は専ら松太郎とミカコは食事をした。早くこの呪縛とも言える殻から飛び出したい、松太郎は黙々と食事をするのだった。
ミカコもただ黙々と手を動かす。
最近で松太郎の父親の秀樹やミカコの父親の有木社長は食事会に参加しなくなった。
必然的に松太郎はミカコと二人きりになる時間が増えることになる。それはやはり少し憂鬱なものどあった。
松太郎は今日、少しだけミカコと話をした。
ミカコがどこの大学を卒業していて、現在は有木社長の元で秘書のような務めをしているということを知った。年は松太郎よりも二つ下である。
松太郎は、今日こそはミカコに結婚はしないという意を伝えようとしていた。
マスターと話をしたおかげで、自分がどれ程彩子のことを愛しているかを改めて痛感してしまった。
しかし、彩子が幸せになるならば自分はどうなっても良いというのは建前だった。
本当は彩子と一緒にいたいが、彩子が自分以外の男との将来を選ぶならそれは賛成だった。
そうして彩子が幸せを選べば良いのだ。
松太郎は思う。
自分は彩子が幸せになってから、せめて彩子までとはいかなくとも好きになることができる女性を見つけて結婚をすれば良い。
「ミカコさん」
松太郎はこの時初めてミカコの名前を呼んだ。ミカコは肩をぴくりと跳ねさせ、驚いた顔でこちらを見た。
「すみません。やはり僕は貴女と結婚をすることはできません」
「……」
「好きな人がいるんです、大切にしたい人がいるんです」
松太郎は少しだけ泣きそうになった。ミカコの表情からその真意は計ることができない。
「解っております」
それだけを呟くと、ミカコは席を立って個室を出て行ってしまった。
一時間程待ってはみたが戻ってくる様子がないので、松太郎も帰ることにした。

