コーヒー溺路線

 

午後六時、定時になったので残業のない社員はちらほらと帰路につく。松太郎も残業がないのでエレベーターへ早めに乗り込んだ。
 

深く傷心してうなだれた松太郎はその日車で出勤した為、車の鍵を手の平で遊ばせながらエレベーターが一階へ到着した。
 


 
「ごめんなさい、待ちました?」
 


 
彩子の声がした。
松太郎は血相を変えて振り返る。
 

そこには靖彦ではない男に笑いかける彩子の姿があった。秀樹の話は真実だったのだと松太郎はぼんやりと思った。
 

もちろん彩子が今話している相手は俊平だ。いつからか食事こそしないものの、二人で帰るようになった。
二人はいつものようにロビーから外へ出ていった。松太郎はそれを眺めているだけだった。
 

ああ、もう駄目なのだと松太郎は思った。
もう彩子のことは忘れて、あのミカコという娘と結婚をすれば良い。そういえばミカコは何歳なのだろう。
松太郎よりは年が下のようだが、どこの大学を卒業していて現在は何の仕事をしているのだろう。
松太郎は全く知らない。
 

余程興味がないらしい。
少し笑える。