彼女の周囲に紫電が舞う。そして、周囲の色が無くなった。

強力な電磁波を利用した光学迷彩。

今、彼女の周囲に存在する光は、全て湾曲され彼女を迂回して進んでいる。

当然、光を反射していない彼女は周囲から見えなくなった。

しかし、この技術には問題がある。

光が迂回すると言うことは、彼女の網膜に光は入ってこない。

結果、使用者は漆黒の暗闇に一人になってしまう。

「アル! 通信は聞こえるか?」

『はい、博士。良好です』

彼女の助手の声がイヤホンマイクから聞こえてくる。

「12秒後、予定のコース、予定のスピードで研究所まで走る。イレギュラーがあったら教えてくれ! 5、4……」

蓮城麻美は、漆黒の闇の中、迷う事なく走りだした。
先程シミュレートした通り、左手20メートル辺りの距離に着弾音、続いて右後方に着弾音。

後数十メートルで、研究所正面……。

『博士! イレギュラーです。ベリル・レジデントの動きがシミュレートより15秒早いです。ポイント666BEまで移動』

「やってくれる! ウィルスは必要なかったか」

脳裏に映し出されるシミュレーション画像に修正を掛ける。

直後、聞こえる爆発音。爆風によって光学迷彩に揺らぎが走る。

研究所正面までは近い、解除して走り抜ける。

そう思った彼女は、解除と同時にベリルのヘッドセットに割り込みを掛けた。

彼等を囮に正面まで、侵入した。後ろから撃たれる事はないだろうが、こちらの動きを伝える。

回線を切った後も傍受は続けた。彼等のこの後の展開を確認しておいた方がいいからだ。