『ジム・ハミルトンの救出と、この研究所の破壊。全てのデータを消去する事だな。貴様と同じ理由だと信じているのだが』

データ? 化学式を知っている? こちらの名前を知っている事とグラン達にクラッキングを掛けた事を考えると、安易に信用は出来ない。

「おいそれと信用出来る話ではない。ジム・ハミルトンとはどういう関係だ?」

ベリルは、英語で話すのを辞めて日本語で問い掛ける。日本人なら何らかの反応がある筈だ。

『そういうお遊びは嫌いじゃない。彼の元上司で友人のウルリッヒ・シュタイナー博士に頼まれてね』

蓮城麻美は薄く笑うと間髪を入れずにイタリア語で返した。彼女の方もベリルがどこの国の人間か、調べがつかなかったからだ。

「成る程。研究所を破壊する理由は?」

『人が持っていい知識ではあるまい。そう思わないか? 不老不死のミッシングジェム』

「何故、私の事を」

『ペンタゴンの奥深くにデータがあったよ。それなりに活躍している自覚はあるのだろう?』

中国語、フランス語、韓国語、ドイツ語……。共に余りに流暢に言語を操る様に、不毛な物を感じる。

『ベリル・レジデント……。いい加減いいだろう。悪いが地球上に現存する言語は網羅している。流石にヤルジャワ語とかウンデナ語等を使われたら、思い出すのに時間が掛かりそうだがね』

流石にそんな言語は聞いた事がない。ベリルは思考を切り替えるとある質問をした。

「……箱の中の猫は、生きているかね。それとも死んでいるかね」

スコープ越しに見える彼女の目が細まり、口角が吊り上がる。そして、彼女は笑いだした。