一度部屋を出た彼女が、すぐに戻ってきた。その事にシュタイナー博士は驚きを隠せなかった。

「な……何か忘れものでも?」

「屋敷の外に不穏な気配がある。警備の者は何人いる?」

「ひ……、一人ですが……」

「内線で不審な者を見つけても、刺激しないように伝えろ」

そう言って彼女は、再びソファに座ると白衣に入れていたモバイルPCを取り出し、電源を入れた。

一瞬だけ【あさみんふぁくとりぃ】と表示され、直後にディスクトップ画面が表示される。既存のPCでは考えられない起動速度。続いて複数のウィンドウを同時に開くと、キーボードを高速で弾いていく。

「上空に位置する衛星は……っと」

僅か数秒で衛星を特定。その衛星に応じたウィルスを作成、送信。一部機能を奪取。座標軸を指定、撮影。それらの事を瞬く間にこなしていく。

「捉えた……。相手は三人か……」

モバイルPCの画面には、拡大されたシュタイナー邸と塀の外でしゃがみ込んでいる男達が映っていた。一人は裏手に、後の二人は正面に隠れている。

「三人も! にっ、逃げましょう!」

「三人くらいなら私一人でも何とかなるだろう。出来れば捕まえたいな。警備の者は裏に回せ。正面は私がやる」

「危険です!」

彼女はその言葉には答えずに、ウイルスを奪取したデータ、履歴と共に自己消滅させると、モバイルPCを懐に直し部屋を出た。