「あ、連。そこ空いてるよ!座って?」
「俺はいいよ。ひな、座れば?」
「何言ってんの!!けが人に席を渡すのは、基本…わっ。」
二人で席を譲り合ってると、通り過ぎた人と肩がぶつかった。
その衝撃と電車の揺れで、あたしは大きくよろけた。
「あぶねっ…。」
連が、あたしの腕を強く引っ張った。
「きゃっ…。」
あたしは、連の胸に背中をぶつけた。
筋肉がついてそうな、厚い胸。
「って…。」
「はっ!!…ご、ごめん…。」
「大丈夫?」
うえから、顔を覗きこまれた。
「う、ん…。」
「お前、ちっこいんだからよぉ…ちゃんと前ぐらい見て歩け!!」
そう言って、あたしの髪の毛をクシャクシャと撫でた。
これ…好き…。
「お前の髪、柔らかいな…。」
嬉しい。
普段から、リンスとトリートメント、念入りにやってて良かった…。
それと、ぶつかってきた人、ありがとう…。
「あ。」
見ると、その人が、その席に座っていた。
どうしよ…。
「ひな、こっち。空いてる。」
そう言われてついて行ったのは、隣の車両。
「ほら、ここ。」
そこには、二つの空いてる席。
「あ…。」
もしかして…二つの席、見つけてくれたの?
だからわざわざ、ここまで来たの?
一つだけなら、いっぱいあるのに…。
