「あっちに行って、俺も正解だったと思うよ。こっちの友達とはなかなか遊べねーけど、なんか感謝してる」
口を尖らせながら微笑むと、親父は俺の顔をみてほんの少し笑った。
「親は、子供のやりたい事に協力してやるべきだと思う。予備校ならこっちの方が選択枠が広がると思うが、帰ってくるか?」
「いや、転校ばっかは面倒くせーし。あっちが俺には合ってるから」
とは言っても、あのクソ田舎じゃ予備校なんてない。
あるのは理衣が通ってるという隣町の1校だけ。
そこも交通手段は1時間に2本という、恐ろしく不便なバスの路線上なんだけど。
…ま、仕方ねーか。
「お父さん、ガソリン代くらいお小遣いあげましょうよ」
俺たちの傍で黙って話を聞いていた母親が言う。
いつも親父の話に従うばかりで自分の意見を言ったことのない人が、今、俺の為に始めて口を挟んだ。
これには父親も驚いたようで、目を大きく見開いたまま無言で母親の顔を見つめていた。
「そろそろエンジンもかけてあげないとバイクも可哀相でしょう。遊びじゃなく、通学の為に使うんだったらいいじゃないですか。不便な高校だから校則もバイクの運転については厳しくないんじゃないかと思うんだけれど」
母さん…校則で許可されてるのは原チャリだけだよ、250ccバイクは対象外だ。
喉まで出かかったが、言わないことにする。
だって、せっかくのチャンスなんだし。
あれに乗れば、予備校の帰りに瑶の病院に寄って帰る事も可能になる。

