【短編集】砂糖をかけたみたいに









12時10分前だと知らせる鐘が響きわたりました。

はっとしてシェリンは王子の腕を振り払い、ディリアスのいる馬車まで走りました。

階段を必死に駆け下りていると後ろから腕を引っ張られ、大きな体に包まれました。

振り返ると王子が荒い呼吸を繰り返しながらまたも強く抱きしめられました。








「なんでっ…きえないで、居なくならないで…っ」

これまでに聞いたことのない切ない声で訴えてきます。

「…好きだよ…」

シェリンの頬から一粒、こぼれ落ちました。







12時1分前。

彼女は彼を振りほどき、走り去りました。

階段にはガラスの靴がひとつポツリと残されていました。







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