「ねえ、あのお姉さんに見覚えある?」


今度は反対側から聞こえてくる声


「えっと、はい、あの……教育実習で来てた……」

「そう、真木ちひろ先生」


静かで優しげな声色だけど、そこにはたっぷり威圧感がこめられててルリちゃんはたじたじ

もう一人の女の子も背筋をのばして、両手はおヒザ


「で、その真木先生の彼氏が……あの俺様男なんだけど

高校生とは言えど、もう立派なレディだもの

他言していいことと、してはいけないことの区別くらいつくわよね?」


幼さの残る二人がぶんぶんと首をたてに何度も振る


「良かった、……話のわかる子は大好きよ

それとね……」






たっぷりの間を置いて、あこさんはルリちゃんに語りかける






俺は、砂糖だのミルクだのを並べながら……耳を済ませた


隣の部屋のヤローが歌う「純恋歌」のマイク音量が半端なくでかくて、肝心なあこさんとルリちゃんの会話が途切れ途切れにしか聞こえてこねーし




「スキでもない女のために、わざわざ男はトラブルに首をつっこまないものよ?

あなたが彼にとって遊び相手の女なら、どっかの男と乳繰り合っててもどうでもいいもん」


いや、“乳繰り合う”って表現がどうかと思うけど



「ケンカになるかもしれないと思っても、あなたの為に部屋に飛び込んだ

アタシは、彼はあなたにとって悪い男じゃないと思うの

…………多分」




多分……は余計だろ