1985年、僕は総理と呼ばれていた。

 公園を抜け、出口にあった階段をゆっくり下りると、目の前を数台のタクシーが通り過ぎて行った。雄二は静かに正面に目をやる。急いでいたせいもあるが、背中と腋の下、そしてこめかみから汗が噴出してきた。同時に心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
 

 雄二は視線を右へと向けた。そしてまた正面に戻した。そしてそのまま上を見上げた。上空は漆黒の闇が広がっていた。星は見えなかった。






 もう一度正面に顔を戻した。



 瞬間的に、数分前の、いくつかの出来事が蘇った。







 携帯が圏外だったこと。公衆電話の色。そして自販機の真ん中にあった巨人軍の選手の広告。 








 眼前を凝視した雄二は、声にならない声を発していた。













 「……都庁が無いじゃん」