1985年、僕は総理と呼ばれていた。


 その時、斜めにかけていた鞄が手すりの先へと勢いで振られた。瞬間、雄二の体が前のめりになった。同時にシーソーの反対側が持ち上がるかのごとく雄二の上半身が下へと傾いた。



















 激しく体を揺さぶられて目を覚ました雄二は、視界に制服の警察官が二人いることに気がついた。 

 あわてて上体を起こすと、後頭部に鈍い傷みが走った。目の前の警察官は、呑みすぎたのかな?こんなところで寝てると危ないから、と注意を促してきた。周りを見るとそこはなにやら資材置き場のような場所で、雄二はその片隅に横たわっていたようだった。


 状況がつかめなかった雄二は、咄嗟に「今何時ですか?」と警察官に聞いていた。

 警察官は腕時計を見て、日付が変わって2時36分だねと答えた。


 雄二はあわてて立ち上がり、「2時?」と聞き返していた。警察官は酔っ払いをあしらうように雄二の肩を叩いて


「そうだよ、もう電車も無いからタクシーだね。その通りを出ればタクシーも走ってるし、すぐに公衆電話もあるから」と背中をポンポンと叩いてきた。


 雄二は言われるまま歩き、通りに出た。通りを挟み、正面には新宿中央公園が見えた。右に視線をやると警察官の言ったとおり電話ボックスがあり、すぐ近くにジュースの自動販売機もあった。喉がカラカラに渇いていた雄二は、自販機の前に立ち、飲み物を買おうとしたのだが、とにかく、絵里に連絡をして帰宅しなくてはならないなと思い、新宿駅へと向かうことにした。自販機の中央部分の広告を凝視し、電話ボックスを見つつ、雄二は通りを渡ろうとした。「おかしいな」という感じを抱きながら。


 公園内に入り、雄二は携帯を出した。絵里へメールをしようとしたのだが、なぜか圏外になっていた。おかしいな、壊れたのかな?と感じながらも、とにかくまず駅へと向かう気が急いていた。

 中央公園内にはベンチごとに人がたむろしていた。街灯はあったのだが、深夜の公園内は薄暗く異様な雰囲気を醸し出していた。男の一人歩きでも不気味だった。