10時頃、雄二は立ち上がり、目の前で手刀を切った。3人は「そうか、もうこんな時間か」と言いながらも、それぞれ、また会おうよと握手をしてくれた。
小池は出口まで一緒に来てくれた。すまなかったな、というと、足元ふらついているけど気をつけて帰れよ、と言ってくれた。
店を出てエレベーターの前まで行くと、すぐ横にあった鉄の扉が少し開いていた。ドアを開けて覗いてみると、そこは非常階段だった。
「まったく、エレベーターの横に非常階段があっても意味がないじゃないか」と独り言を言いながら雄二は外に出た。
眼前には新宿の夜景が綺麗に映った。同時に心地よい風が吹いてきた。雄二はそのまま階段をゆっくりと下りていった。
心なしか足元はおぼつかなかったが、絵里のことが気になり、セーブして呑んでいたため、そんなに酔ったという感じではなかった。
絵里に、「今呑み屋を出たところ。これから帰るからね、体調どうだ?」というメールを打ちながら階段を下りていた。
1階に着いたものの、1階の扉は何故か施錠されていた。チッと舌打ちをして2階まで上がると、2階も施錠されていた。
「なんだこのビルは」と言葉を発し、雄二は手すりから身を乗り出して眼下をキョロキョロと見た。今自分が立っているビルと隣のビルとの間にブロック塀がある。
届きそうだな、ブロック塀の上に飛び移れそうな気がした雄二は、手すりに足をかけた。
