1985年、僕は総理と呼ばれていた。


  告別式の合間に小池は、雄二の父からあることを聞かされた。

 「小池さんにだから言うけどね、雄二は何故か、所持品が一つも無かったのですよ。財布も携帯電話も、外出するときは必ず持っていた鞄さえもね」

 「えっ!! それはおかしいですよ。雄二は僕等の前で、携帯も財布も出してたし、鞄だって持ってた。山口からのお土産も大事そうに鞄に入れてましたよ」


 「もちろん、わたしらもそこは突きましたが、警察は、あの辺りはホームレスなんかもウロウロしてるから、もしかしたら、所持品は全て持っていかれたのかも知れません、と言ってましてね」


 小池は黙って聞いていた。



 「まあ、雄二の体からは、出血がなかったみたいですし……、居眠りしている酔っ払いくらいにしか思われなかったんでしょうかね。わたしら、後からその現場に行ったのですが、そんなに高い所から落ちたというわけでもないのに……死ぬなんてね……。とにかく人目につかなかったのが、命を落とす原因になったのかもしれません」



 淡々と話す雄二の父親に対して、小池は返す言葉が見つからなかった。