1985年、僕は総理と呼ばれていた。

 

 絵里の顔を見ていたら、本当のことが言えなくなった。絵里をこんなことに巻き込むわけにはいかない。この時代の絵里にはこの先の未来がある。それを壊すようなことは許されない。


 とは言うものの、どこかで気づいてほしいという気持ちもあった。だから約束の時間までは待ち合わせの場所にいた。


 しかし、絵里は来なかった。


 約束の時間を20分回ったあたりで、雄二はその場を離れた。


 水の広場を何度か振り返りながら、雄二の心の中は、これでいいんだ、という思いと、もう少しここで待っていれば絵里はやってくるんじゃないか、という思いが激しく交錯した。