1985年、僕は総理と呼ばれていた。

 
 「おじさん、なんで嘘をついた、おじさん、なんで嘘をついた」絵里は心の中で何回もそう呟いた。

 絵里はいつの間にか声を上げて探し始めていた。


 「中曽根雄二さ~ん!!!」

 公園内をうろついてる男達は皆、絵里を目で追った。

 「中曽根雄二さ~ん!!!」


 絵里の叫び声はいつしか泣き声に変わった。

 付近を警邏中の警察官が駆け寄って来た。
 「どうかした? 誰か探しているのかな?」
 一心不乱に呼びかける絵里をなだめるように訊ねる。
 
 絵里は立ち止まり、激しく肩を震わせた。嗚咽が漏れた。

 警察官は、交番で休むかい?と絵里の体に触れてきた。絵里は大丈夫です、もう帰りますと答えた。

 「誰かと待ち合わせだったのかな?」と警察官は聞いてきた。




 「はい、未来の旦那さんと」 
 絵里は心の中でそう言った。そして放心状態のまま公園の外へと向かっていた。