1985年、僕は総理と呼ばれていた。

 
 友子の家から十メートルくらい行くと大通りがある。絵里はタクシーを見つけるべく、そこまで全速力で走って行った。すぐにでもタクシーに乗りたかったのだが、なかなかつかまらなず、しばらくあたりをうろつくことになった。

 ようやくタクシーを止め、車内に入ると、荒い息を整え、急いで行き先を告げた。

 「新宿中央公園までお願いします」

 ドライバーは咥えていた煙草を灰皿でもみ消したあと、低いトーンで「はい」と答えた。そしてゆっくりと車線を変えた。

 時計の針は10時を過ぎていた。

 絵里は流れる外の景色に視線を向けた。車内ではラジオが流れていた。そこでも日航機のニュースをやっていた。

 気づくと太もものスカートをきつく握り締めていた。手にはびっしょり汗を掻いていた。バッグから煙草を取り出して吸おうと思ったがやめた。

 もう少し早くわかっていれば、もう少し早く家を出ていれば、余裕で間に合ったと思った。

 絵里はそれでも一縷の望みをかけた。「おじさん待ってて」絵里はドライバーからおつりを受け取ると、勢いよく車外に飛び出した。

 公園内に入り、待ち合わせ場所の「水の広場」前にいった。しかし雄二の姿は無かった。