1985年、僕は総理と呼ばれていた。

 絵里は足早に2階へと上がり、友子の部屋を乱暴に開け、中に入った。部屋では大きな音量で音楽がかけられ、友子はベッドに寝そべり雑誌を読んでいた。

 絵里は無言でテレビをつけた。そこでは母の言っていたように、日航機墜落のニュースが流れていた。

 友子は半身だけ起こし、不思議そうな目を絵里に向けた。絵里は友子の方に体を向けるとテレビの画面を指差した。

 「何?」

 「飛行機が落ちたみたい」

 「ええ!!」友子はベッドから飛び降り、ステレオの電源を切った。

 二人は膝を抱えながらテレビに食い入った。報道は何回も同じような内容を繰り返していた。

 長野県に日航機が落ちたことがキャスターの口から伝えられていた。
 乗員乗客含め524人が乗っていたこと、そして機長の名前などは警察関係者が模造紙に手書きで書いたと思われる映像が流れていた。テレビの画面には何回もそれが映し出されていた。

 友子はとっくにテレビ画面から離れ、ベッドに横になり漫画を読み始めていた。

 絵里は壁にかかっている時計を見た。結局昨夜から今日と、思い返しても、雄二が昨日言っていたことは起きなかった。夕刊も駅の売店でチェック済みだった。

 待ち合わせの時間は10時半だ、つまり、遅くとも10時にはここを出ないと間に合わない。

 「おじさん残念だったね」と呟いた。

 テレビを見出してから、約1時間経った。いつの間にか、ニュースそのものに気がいって、雄二との約束はすっかり忘れていた。

 母が心配するわけだな、と思いながら、画面に見入っていた絵里は、ニュース番組で繰り返されているあることに気がついた。

 「524…人、高浜…雅己…機長、49才」

 「まさか!!」

 絵里が突然発した声に友子は驚いた。
 絵里は立ち上がり、テレビのスイッチを切った。そしてバッグを手に取り、ちょっと用足しに言ってくるね、といって部屋を飛び出した。