1985年、僕は総理と呼ばれていた。

 雄二は言葉を続けた。

 「信じてもらえないことは重々承知だ。だから、君しかわからないことも言った」


 「あの~これって、どっきり? どこでカメラとか回ってるの?」小首をかしげ、半分馬鹿にしたような口調で言葉を続け「私の結婚相手がおじさん?」と絵里は雄二を指差した。

 まったく信じられないわと両手を大げさに広げた後、バッグから煙草を取り出し、口に咥え、ライターを取り出した。

 絵里は大きく息を吸い込み、静かに煙を吐き出した。
 雄二はそれを黙って眺めていた。いつの間にか会館前のスペースには人が大分少なくなっていた。

 「じゃあ、未来では、おじさんと私は結婚をしているわけだ、そんで、なんだか知んないけど、おじさんだけ過去にきちゃって、助けてもらいたいからと、私を探してきた。当然、未来の私は、おじさんにいろいろ話をしているからなんでも知っている、と。大学ノートの話もね」

 「……と、言うことだよね?」絵里はまだ長いままの煙草を足元に捨てた。投げ方に怒りがこもっているかのようだった。

 雄二は、その通りだと言いながら、頭を下げた。

 「正直、私にも理想の未来ってあるんだけどさ、おじさんみたいなぁ、普通で地味な人と結婚するのかって、今幻滅してるんだよね~、自分に」と言いながら足元の煙草をヒールの踵で捻り潰した。
 「フフフ」と前かがみになり、無理やり笑い声を作る絵里は動揺を隠しているようにも見えた。

 友子はまた「早く行こうよ~マジで始まっちゃうよ!!」と叫んできた。絵里は友子の方を向かなかった。

 「そろそろ時間だからさ、まあ、少しはおじさんに興味が出てきたから、もっといろいろ聞きたい気持ちはあるけど」と言って、肩をすくめて友子の方へ体の向きを変えた。
 
 「あっ!ちょっと待って」雄二はとっさに絵里の肩を押さえた。
 「今夜が無理なら明日にでも時間を作ってもらえないか、お願いだ!!ちゃんとゆっくり説明をするから!!」雄二は顔を膝に付けるほどに前屈みになって懇願した。