絵里は腰に手をあて、少し声のトーンを変えた。
「その名前にはまったく心当たり無いな~、まあ、そんなの本当の名前かわからないし、今いろいろ言った事もさ~、探偵さんが調べれば簡単にわかることだよね?」
絵里の言うことは至極当然だった。
雄二は言葉を失った。
その沈黙を破るように後方から友子が「もうそろそろ時間だよ」と叫んできた。
絵里は振り向き「わかった今行くから」と言った。
雄二は焦った。
「じゃあ、この辺で」と体を反転させようとした絵里に「ちょっと待って」と言うと、すぐさま、
「じゃあ、言わせてもらうね。君は中学2年生の時に1つ上の先輩に恋をした。ラブレターを書いた。だけど、手渡す勇気が無かった。君はどうしたか? 毎日毎日先輩に対する恋する思いや気持ちを、大学ノートに書いていった。1年後、偶然その先輩が女性と腕を組んで歩いているところを目撃した。君の恋はそこで終わった。大学ノートは焼却し手元にはもう無い。そしてその話は誰にも言ってないはずだ」
絵里は大きな瞳をさらに大きくした。さすがに狼狽しているようだった。わけも無く辺りをうかがうような仕草もしている。
雄二の心臓は破裂しそうだった。同時に罪悪感も芽生えた。
これで、良かったのか?僅かな時間で自問した。
「つまり、何が言いたいの?」絵里は得体の知れない恐怖をかなぐり捨てる為に、あえて大声を雄二にぶつけた。
「僕はね、未来からやってきた。はっきり言うけど、未来の君の夫だ。なんでこうなったか、まったく理解出来てないのだが、誰かに救いを求めたいと考えた。それは誰かと、ずっと考えた結果、君しかいないと思ったんだ」
絵里はさすがに口をポカンと開けていた。
