1985年、僕は総理と呼ばれていた。


 「なにから話せば良いかな」雄二は咳を一つし、昼の間、公園であらかじめ考えていたことを話し始めた。

 「君は中1の時に盲腸の手術をした。軽く考えていたけど結構な入院だった。5年生の時は学校の廊下で転倒し、頭を強く打ち救急車で病院へ運ばれ、かなりやばかったけど、奇跡的に助かった。後遺症も何も無かった。君のお母さんは、和子という名前で、お父さんは幸次郎といい、ご両親はお酒が入るとかならずこの二つのエピソードを言う。それを君はけっこう厭がっている。実家は札幌市発寒、お父さんのお父さんが子供の頃から住んでいる。なかなかの名家だと思う。絵里という名前は、君のおじいさんが付けた」

 一気にまくし立てるように言うと、絵里の顔を凝視した。雄二は幾分肩で息をしていた。

 絵里はプッと吹き出すと、前かがみになって手を叩いた。

 「おじさん探偵?」

 雄二は黙ったまま、首を横にすばやく振った。

 「いやそんなことよりさ、おじさん名前は?」と絵里はぶっきらぼうに聞いてきた。

 「あっ、ごめんなさい、僕の名前は中曽根雄二と言います」雄二はゴクリと唾を飲み込んだ。

 「ナカ ソネ ユウジ?」

 「苗字は総理大臣と同じ字です。下の字は、雄雌の雄と、漢数字の2」

 高校時代、雄二は、この苗字の為に「総理」とあだ名をつけられていたことを思い出した。