1985年、僕は総理と呼ばれていた。

 
 雄二はこの世界の人々と出来るだけ関わらないようにするために、夕方まで公園内に留まっていたのだが、さすがに空腹がピークとなり、コンビニでパンを買って食べた。

 公園内は何人かの男がベンチやトイレの裏をねぐらとしていた。それらの男達はどこに行くこともなく、何をすることもなく徘徊しているように見えた。
 そんな連中らの中から二人ほど、雄二に向かって「新入りかい?」と声をかけてきたのだが、雄二はそれを無視した。

 夕べは一睡もしなかったが、朝から今までは、空腹感はあったものの、体の疲れや眠気はほとんど無く、なんとなくフワフワしているような感じだった。
 夕方5時になったころ、雄二はベンチから立ち上がり、一路、「新宿厚生年金会館」へと向かった。期待と不安が入り交じり、急に体が震えた。



 西口の地下道を通り抜け、東口に出ると、それなりに人が行きかっていた。人ごみを縫うように歩いていると、「スタジオアルタ」の大きな画面には、懐かしいテレビ番組が放送されていた。しばし雄二はそれを見上げていた。

 雄二と同じような姿勢でテレビの画面を凝視していた通行人も多数いた。

 「夕ニャンかぁ~良く観てたな」

 雄二は若干うつむくと、首を左右に振りながら笑みを漏らした。そして、歩を速め百果園の横を抜けていった。


 会館の前では、通行人はひっきりなしにいたのだが、ライブを観に来たというような感じの人はまだ若干名しか見受けられなかった。

 雄二は階段に腰を下ろし、両手で顔を覆った。

 6時を回る頃には、徐々に人が集まってきた。