「どうやらこれは現実に起きたこと、いや、起きてしまったことなのかもしれないな」
雄二は缶ジュースのプルトップを引き、ゴクゴクと飲みだした。飲み物を口にすると少し落ち着いた。
飲み終わると、両肘を太ももの上に置き、両手の中で空き缶をいじりながら、今後について考えた。
俺はこの時代には存在しない人間だ。ではどうするか?
例えば警察に真実を伝え保護を求めても、きっと、どこかの病院送りか門前払いだろう。
小池の実家の電話番号は忘れた。山口は大学で知り合うのだから、この時代にはどこにいるのかもわからない。親戚も東京にはいない。
あとは実家に電話をかける……くらいか。いや、実家に電話をかけたとしても、どう説明をしていいものか。なら直接出向くか?それならまだ信じてもらえそうだな。それかいっそ、この時代の人間にまぎれて生活をしていくか。
そこまで、考えた時、雄二はハッとした。すかさず立ち上がると、ズボンの後ろポケットに手をやり、財布を取り出した。
「そうか、俺は2010年から来てるんだ、財布の中のお金やカード類や免許証などはこの時代にあるものじゃないんだ。紙幣はもちろん、硬貨だって昭和60年以降のものは駄目だ。こんなの警察官に見られたら保護どころか刑務所行きだぜ」
そう呟いたあと、
「さっきの自販機に入れた100円玉はどうだったのだろうか…失敗した」と言いながら雄二は天を仰いだ。
