「謙信へ?」

「なんだ、てめえは?隠密みてえな格好しやがって。スパイか?」

院長を名乗る男は、タバコをくわえた長髪のやさぐれた男だった。

目付きからして、医者には到底見えない。

「そうそう。この方は謙信様の隠密なんですよ」

「何!?」

院長は驚いた表情で固まってしまった。

「甚八!!てめえは早く言わねえか!!」

「院長の手の早さにはかないませんからねえ…」

何かコメディアンのコントを見ているようだ。

俺はとりあえず立ち上がった。

「あの…」

「ああ!!」

院長はとりあえず気がたっているようだった。

「謙信のところに行くなら一緒に行きますけど…」

「そいつは助かる。ずいぶん前に会っただけだからな!!」

そう言って、院長は豪快に笑っている。

先ほどまで悩んでいたことを忘れるくらい、豪快な男だ。

甚八はほとぼりがおさまり、安堵の表情を浮かべていた。