恐怖ではない。

体の麻痺に近い。

腕もあがらず、梯子もこのままでは下れない。

「やっと効いたみたいね。私の毒が…」

女の袖から、何やらきらめくものが見える。

「ぐ……ああ…」

「君には、死んでもらおう。なにかとばれると厄介なんでね」

刀が再び、根津に向けられる。

まさか、敵のスパイが紛れ込んでいたとは…

「さよなら」

その一言を聞き、根津は目を閉じ、死を覚悟した。

「させるか!!」

ダーンッ!!

銃声が響き、なにかが落ちる音がした。

「ちっ、また見つかったか?」

刀を落とした青年。

銃声は恐らく、孫市のものだろう。

別の見張り台に、孫市の姿を根津は確認した。

「逃げよう。このままでも負ける気はしないけど」

青年は刀を拾い、女を担ぐと身を翻し、見張り台から飛び降りた。