耳に携帯を当てた。

「もしもし……」

『あ、亜実か?!』

「うん」

大丈夫?とも聞いてくれない元彼。

『お願いだ、俺には亜実しかいないんだよ!やりなおそう!!』

自分のコトしか考えないストーカー。
怒りと悲しみ、憎しみしか残ってなかった。

「……もう終わりにしようよ。章汰さん……」

“さん”付けに余計ショックを受けている様子の章汰。
震えた息が私に聞こえてくる。

『……分かった。じゃぁ、最後に3人でお茶したい』

その声は優しい、付き合い始めた当時の大好きで、愛していた章汰のものだった。

「やめておいたほうがいい」

亮平君は止める。

……あ…れ?
おかしいよぉ……
……いいじゃないの。
少しくらい、3人でお茶する……だけじゃん。

昔の優しい章汰と新しい恋人亮平君で、楽しく……
冷たいのは駄目…
もういいじゃん!!

私の心は懐かしさとトラウマが混ざってしまっていた。

「最後ぐらい……いいでしょ?まぁ」

私は単純で馬鹿な女。
優しいその声に心は自分を見失っていた。

「今から玄関開けるね。章汰…さん」

戸惑う亮平君をよそに、私はふらりと玄関に向かう。

携帯の向こうでクスクスという声が聞こえたのは気のせいだろうか。
そんなの関係ない。

ドアに手をかけようとすると、

「やめろ!!!」

私の手をつかむ亮平君。
なんで?!
そんなに冷たいの!!
束縛するの!!

私、おかしい。
頭おかしい。
けど……

「いいじゃん!!少しぐらい!!!」

私は亮平君の手を振り払って、後ろに押した。
倒れこんで唖然とする亮平君をほっといてドアに再び手をかけた。


ガチャ。

目の前には、ニコニコとした優しい笑顔の章汰。
両手を後ろでくんでいるような格好をしていた。