──施設にいたころ国の上層部から送られてくる、年に一度の視察員の中に奇妙な男がいた。

 視察員はいつも同じ人間とは限らなかった。ベリルが六歳のときに訪れた男は、一見して不思議に感じるほどその端々が異様だった。

 灰色の髪と同じ色の瞳に端正な顔立ちの、二十代後半の青年だったと記憶している。その男はキメラを見下す他の視察員とはまるで逆の態度をベリルに見せたのだ。

 自分が付けた名前でベリルを呼び、他の誰に対するものよりも丁寧に接してきた。

 ベルハースがいぶかしげに思いその青年に注意を促すと、彼は語気を荒げて半ば叫ぶように意味不明な言葉をまくしたてた。

 ベリルは目の前で聞いていた訳では無かったが、教授に向ける青年の横顔には狂気が宿っているのではないかと思われるほどぎらついた目をしていた。