「無駄なのに」

 ジーンは肩をすくめてベリルの横顔を見つめた。

 無駄な事を何故、続けるんだろう? どうあがいたって、フォージュリから憎しみを取り去る事など出来ないのに。

「ねえ」

 呼びかけに、ジーンを視界の端に捉える。

「僕たちが父さんと同じ世界にいたこと。不思議に思ってる?」

 それに答えなくとも、ジーンにはベリルの感情が読み取れているようだ。

「父さんが勉強のために外の世界を観察する時間を与えられていたように、僕は父さんを見る時間を与えられていたんだ」

「そうか」

 虚ろな相づちにジーンの口元が緩む。

 見られていたことなど、ベリルにとっては今さらなのだろう。施設には、いたる所に監視カメラが設置され四六時中、観察されていたのだから。

 研究のためと言いつつもその実、逃亡を図ることを危惧していたのかもしれない。当然のことながら、恐れていたのは施設にいた者ではなく、政府の人間たちだ。