ガラス越しに見る顔は、やはり記憶にはない。一度、顔を合わせているなら忘れるはずはないのだが、記憶のどこを探してもその面持ちに覚えはない。

 傾きかけた日差しにせっつかれるように、住宅街の音がやや騒がしくなる。これからオレンジに変わる世界は、人々の生活をまだ大きく空に響かせていた。

 端末を閉じ、ガラス戸を開く。

「何の用だ」

「初めまして。かな」

 肩に届くほどの金の髪には、若干のくせが見て取れる。その瞳は、深い海を思わせる青緑をしていた。

 サンドカラーのカーゴパンツに、黒のフライトジャケット。一見すると、そこら辺にいそうな柄の悪い青年という印象でしかない。

 しかし、彼はここにセキュリティを抜けて入ってきた。油断していい相手ではない。