一種、異様な空間と環境であったにも関わらず、人工生命体は子どもらしい癇癪(かんしゃく)や不満を見せる事はなく、与えられる教材をこなしていった。

 年に一度、政府からの監視員が数日、施設に滞在しキメラを視察しに訪れる。監視員たちはベリルを人として扱わなかった。

 それはまるで、品種改良を重ねた犬や猫のように見下ろし、あざけりの名を呼んだ。

 天才少年に多くの知識を学ばせるため、少年の正体も知らぬまま──彼らは武装した集団に無残にも命を奪われた。

 あのときのベリルに、何が出来ただろうか。あまりにも無力な自分を嘆くしかなかった。流れぬ涙に苦しみ、その記憶が今のベリルを形成している。

 他人(ひと)から見れば、確かに異様な場所だったのかもしれない。それでも、私は愛されていた。ベリルはそれを肌で感じていた。

 愛情表現の下手な科学者たち。そして、少年の放つ存在感に怯えながらも、愛情を持って接してくれていた専門家たち。その全てを、ベリルは今でも鮮明に記憶している。