このままここに居続ければ、住民に被害が及ぶのは必至だ。ベリルは、ゆっくり話し合うためにも、ここから離れる事を考えた。

 住宅街だというのに、二人からは武器を使うことにまったく躊躇が見られない。

 警察から上手く逃げ切れる自身でもあるのか。何より、関係のない人間が傷つくことを少しも恐れず罪悪感の欠片も見えない。被害が及ぶ前にこの場から離れるしかない。

 ともかく、それぞれの感情は違えどベリルに執着しているという点では変わらない。

「どこに行くの?」

「バリングラ」

「ああ。マウント・オーガスタスね」

 西オーストラリア州カナーボンから東に、約四百五十キロメートルの地点にある世界最大の一枚岩だ。

 周辺はマウント・オーガスタス国立公園 になっており、七月から十月にかけてワイルドフラワーが咲き乱れる。

 バリングラとは、先住民族アボリジニのワジャリ族の言葉である。